日本橋生まれの京橋育ち、そのためか私には「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子気質がしみついています。
しかし社会人になった当初には給料について「あると思うな一〇%、使い切れ九〇%」ということを心がけましたが、すぐにもとの黙阿弥になりました。
したがって八〇歳に近づいた現在でも、貯金・株・生命保険などは一切ありません。(万一の病気に備えて所得補償保険だけはかけています。)
反面、そのおかげで、友人とのつき合いや趣味の習得にはお金を惜しまなかったため、チェロ・シャンソン・カンツォーネ・謡曲・小唄・端唄など、年を経るにつれて趣味が身についてきました。
それによって友人の幅も拡がり、いまは医者よりも音楽関係の友人の方がはるかに多くなりました。三年前に最高の伴侶を失ったいまでも、折にふれて多くの友人たちと会合などで旧交を暖めています。
一度しかない人生、それを少しでも有意義なものにするためには、家族のふれあいを大切にするとともに、友人と趣味を豊かにすることが必須であると考えています。
ただし、友人や趣味は一朝一夕で得られるものではありません。それにはそれだけの準備期間が必要になります。
そうはいっても、いまの社会状況を考える時、自分の仕事をおろそかにすることはできません。私にしても最初の趣味であるチェロは四〇歳を過ぎてです。
人によって差はあるのは当然ですが、六〇歳前後の定年に向けてそれなりの準備をし、それを継続してゆくことが、人生を豊かにすることにも繋がるのではないでしょうか。
私は、これからも子孫には美田を残さず、家族とともに友人や趣味を大切にして、やがて訪れる死出の旅路をたのしく辿れるようになりたいものと願っております。 |