いまや、日本人の平均寿命は男女とも世界一になりました。その中にはたしかに健康で生き甲斐を持った本当の長寿者もあります。逆に寝たきりで家族から疎まれている人や、医療機関で延命措置を施され、無理やり命を永らえさせられている人もあります。そうした点を考えた時、今の日本は人工的に生命を延ばしている長命社会であって、自らの人生を自らが創る本当の長寿社会には結びついていないのではないでしょうか。経済優先で突っ走ってきたこの国には、どうやら「長寿の思想」というのがすっぽりと抜け落ちているようです。定年後の人生は会社を辞めてからなどと考えているとしっぺ返しがきます。世界一の長命国日本はそれほど老人には甘い国ではないからです。長寿を生きるということは、あせらずじっくりと毎日の生活の中で長寿を生き抜くための条件を少しずつ備えてゆくという地味な積み重ねなのです。五十年間子どもを見続けて、多くの若死にに向かい合ってきた私には長寿の方法はこれしかないと思います。戦後、日本は経済的に豊かになりました。その代償として、自然とのつながりは希薄になり、体位は向上したが体質は劣化し、免疫力も低下しました。
戦後六十年経ったいま、経済優先の競争社会にほころびが見え始めています。こういうことを続けていては、長寿も叶うはずはありません。いくら個人で長寿を望んでも、社会として周囲や自然を破壊し続ける限り、個人の努力には限界があります。こうした現状にあっても、長寿は自らの努力で作るものだと思います。経済中心のシステムは個人の生き方の集積の結果だからです。私たちが生きる価値を経済以外のものに見出せばこの流れは変わります。
経済以外の価値観を見出し、「自然と共生する」姿勢を明らかにしていく事が、ひいては超寿に結びつくものと確信しております。 |