終戦後、子どもたちの食卓にのる食べ物が年とともに軟食化の傾向を辿っています。また、ジュース・ミルクなど熱量の高い水分の摂取量も増加し続けています。
それに伴って咀嚼の習慣がうすれ、それが誘因となってさまざまな病気が生み出されていることに眼が向けられていません。
出生直後から、母乳哺育と人工哺育では咀嚼力に格段の差が生じます。母親の硬い乳首と商売用に飲みやすくした柔らかい乳首に自然界にはない大きな孔を開けた哺乳びんの乳首では生まれた時から決定的な差が生じます。
咀嚼の際に主に使うのは下顎です。よく噛む習慣がつかないと、下顎が小さくなるため噛み合わせが悪くなり、さらに咀嚼不全になるという悪循環を生じます。
噛む時には同時に舌も使いますから、軟食に馴染んだ子どもは舌を十分に使わないために、言葉おくれなど、ひいては知能の発達にも影響が及びます。
食べものをよく噛むことは、顔面筋の発達を促し、表情も豊かになります。さらには水晶体の調整をする毛様体筋も発達し、視力が正常に整えられます。いま、眼鏡の使用率が信じられないほどに増加しているのは、よく噛まないことに起因しているのです。
何といっても、咀嚼の最大の利点は、噛むことによって唾液が十分に分泌されることにあります。唾液にはさまざまな発癌物質を抑制する力、いわば毒消し力があります。
終戦後、がん患者が激増しつづけている理由のひとつに咀嚼力の低下があることをしっかりと理解していただきたいものです。
唾液にはパロチンという老化防止物質が含まれていますから、よく噛むことは長寿にも結びついてくるのです。
このような点に留意して、小さい時から食べものをしっかりと噛んで食べる習慣を身につけていただきたいものと切望いたしております。 |